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やま猫SOMETIMES

2009年に亡くなった漫画家・エッセイスト、やまだ紫のブログを移植しました。

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新幹線日記 11

 日帰り。朝は7時から自宅に戻ったのが夜中12時半、体力あるなあ。
 帰りは会議を中座させてもらって心苦しかったけれど、ホテルで無目的に起きるのが切なかったから強行軍でも帰った。
 連休の合間だったので早めに切符を買っておいたのが、なんの具合なのか夜9時を過ぎた東京行の新幹線はがら空きだった。そういえば、京都の駅構内の人も少なかったし、いつも売切れになっている土産物もあまっていて変だと思った。何の加減だろう、こんなに空いているのははじめてだった 。
 その空いた車内の私の隣には、なぜか若い女性がすでに座っており、前には同じく京都から乗り込んだ夫婦が5歳ほどのコドモを二つの座席に挟んで座っている。車内は空いているのに、私たちだけが固められている。(コドモだ)と少し寒くなったが幸いそのコドモはおとなしく、隣の女性共に次の名古屋で下りていった。
 入れ替わりに二人の中年男性がすでに酒に酔って乗り込んで来た。通路を挟んで三人掛けの席に座ると直ぐ、「足伸ばそうよ」と一人が言い、前の座席をクルリと向かい側にして「あーっ、やれやれ!」とか言って靴下の足を向かいの席に伸ばした。人が居ないせいか彼らの話し声が大きく聞こえた。少しは離れているから(何でもしてくださいよ)という気持ちで本を読む。
「ねえ知ってる? この列車さあ、500系って言って、滅多に乗れないんだよ、こうデザインが良くてさ、乗り心地も違うだろ? 横揺れがしないだろ?」なんて子供のようにはしゃいでいた。酔いのせいか?
 本に集中しようとしても会話が耳に入ってくる、と思ってみたが、耳をそばだてているのは私だった。あまり無邪気なもんだから聞いてしまうのだった。
「こういうとこに隣に若い女がいるといいな」「いやいや」「奥さんは?」「おくさんはいいよお」だって。私より若そうで、50歳前後かあるいはもう少し若いのかも、でも一人の髪はバーコードになっている。そんな歳で「若い女」がいると嬉しいのか…と思考してしまう私。こういう間抜けな会話を聞くと「男ってバカだなあ」とある種、哀愁を込めて言いたくなるんだけれど、実際家でオットと間抜けな男を揶揄しているとオットは「なさけねえなあ」と笑うし、けしてオットを情けない人間とおもっていないから同性を一律におちょくるのは失礼かもと思って話はいつも終わる。けれど列車の中の二人の情けない会話は続くから、ついつい面白く聞いてしまう。どうも片方の男は相手の奥さんに切り込みたいようで、しきりに「奥さんはどうなの」「奥さんに気を使ってる?」と食い下がる。せっかく面白いなあと思って聞いているというのに、二人は少しの間にもう首を傾(かし)いで、赤い顔で眠り込んでしまった。非常に残念だ。
 読んでいたのは綿矢りさの「蹴りたい背中」河出文庫。二十歳ほどのこの文筆家の作品を読んでいて、なんだか若さが無い頑張ったものを感じた。本棚の匂いがするのだ。何故か友人の「井坂洋子」を感ずる。綿谷の薄い一冊が、井坂洋子の詩集には20冊ぶんは入っている。
 井坂洋子の詩には様々なレトリックが読み手に用意されて、ふいに(どん!)と胸を衝かれ立ち止まってしまうような深みがある。若い書き手にそれを期待するのは酷ではあろうが、作者の枠が見えてしまって、似て非なるものだと私は思った。この作家は確かによく「読書」をしているとは思う、けれど詩となると、詩人以外はあまり読まないんだろうなあ。
 新幹線を降りて東京駅のホーム、キヨスクのシャッターは閉まった時間。その暗がりで、暗いのに随分遠くから感ずる不穏なものが…。近づいて行くとアベックが、またしても「アベック」という言葉がでた。小柄な男と女がキオスクの暗がりで隠れたつもりでものすごく身体を密着させて呆れるほど長いキスをしていた。遠くから通り過ぎてキヨスクの陰に隠れてみえなくなるまで。あれでよく息ができてるなあ、どんな仕組みなんだろう。鼻で息をしていなければ死んでしまうと思われるほど。面白いからずっと見て通り過ぎた自分もアホな半笑いだったとおもうが。人間、やるときはやるもんだ!
 朝からずっと移動だのなんだのと動いていたから帰りにはなんだか妙なものも見たし、テンションがあがっていた。脳からアドレナリンやら変な汁を出していそうだった。
 ちなみに新幹線で酔って寝たバーコード人をシャメそてオットに送ってしまいました。ごめんなさい。
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